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たなかこういちの開発ノート

システム開発に携わる筆者が、あれこれアウトプットするブログ

扇風機「GreenFan」を生み出したバルミューダ社が、急成長に伴い“アジャイル”から“UP”に転換した話

アジャイル
5月の連休にはいくつか書籍を読みました。そのうちの一冊が次です。
 
 
バルミューダ株式会社(http://www.balmuda.com/)は、社員数3名、売上4500万円の、デスクライト、PCスタンドなどを製造販売する、小さなPC周辺アクセサリメーカーでした。リーマンショック後の2008年には全く注文が入らない状態となり、倒産の危機にさらされました。しかし、2009年に特徴的な扇風機「GreenFan」を開発、扇風機というコモディティーの最右翼のようなカテゴリーに新しい概念、価値を作り込むことに成功し、大ヒット。その後の新商品もヒット続きで、2013年には売り上げは約50倍の22億、社員数は約50名に急成長を遂げたという会社です。
 
そのバルミューダ社と率いる寺尾玄氏が、如何に「GreenFan」を開発したのか、その成長物語や寺尾氏のひととなりについては、ぜひ同書を読んでみてください。
 
 
ここでは、バルミューダ社が製品開発でとっていた開発プロセスについて言及したいと思います。
 
当初の社員数3名時代の開発プロセスについては、同書27ページからの「第2章 広告より「細部の詰め」に投資する」に見て取れます。同書にメソドロジーに関わる用語は登場しませんが、どう読んでも「アジャイルで高速PDCAを回す」ことを実践した、という話が書かれています。全ての工程を自社でハンドリングしています。プロトタイピングに3Dプリンターを利用しています。寺尾氏のパフォーマンスは、明らかに前回の《Web企業とアジャイルの話》の記事でいうところの“グロース・ハッカー”そのものであり、プロダクト・デザインを極限まで磨き上げています。
 
同書の要所要所に登場しますが、バルミューダ社の行っている“グロース・ハッキング”において重要なのは、開発しているものが「プロダクト」ではなく「そのプロダクトがあることで実現されるよりよい生活」である、という点です。バルミューダ社は市場調査はしません。代わりに、「そのプロダクトがある生活」について、それはどういうことであるか、社外を含めた複数人の目で徹底議論するそうです。
 
 
私が本当に面白いと思った点はこの先です。社員数50名の規模に成長したとき、寺尾氏は今までのやり方での意思疎通の困難さを感じ、開発プロセスの改革を行います。曰く、
 
「個人の力と気合いで突っ走る時期は終わり、組織力で勝負する段階に入った。これからは、個の力だけに頼らず勝負する仕組みを作ることが求められる。」(※同書118ページ)
 
「例えば当初の想定より売値が3割程度高くなってしまう。気合いだけで走り続け、個々の活動項目に対する『管理』がなかったのが原因だ。」(※同書118〜119ページ)
 
「上流で方針をしっかりと固めれば、下流で迷わずに済む。モックも同じコストで1つ多くつくれる。上流工程に多少時間を要するとしても、お金が掛かる下流での変更が生じるより、結果的に早く安価に開発できる。」(※同書124ページ)
 
そして、「第6章 変革のためには、立ち止まることを恐れない」内、125ページからの「目指すはイノベーションの管理」の節に記されるような、バルミューダ社としての「Unified Process」といえるものを構築しています。もちろん同書にそれが「Unified Processである」との記述はありませんが、どうみてもUP(の一形態)です。この新プロセスを確立するために、新商品開発は一時止めたそうです。
 
数名でアジャイルで成長した企業が、50名規模においてUnified Processに転換しました。ただし目指す提供しようという事業価値・顧客価値は一切変えていません。ただ、成長段階に応じて適切なチーム・組織のスタイルがあると寺尾氏は考え、それを実践したということです。
 
 
バルミューダ社が新しい開発体制に転換したのは2014年とのこと。その成果を見るのはこれからということになります。バルミューダ社の事例はたった一つの事例に過ぎないのかもしれませんが、私にとっては多くの発見がある話でした。
 
◆以上
 

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